飲食店の裏話

飲食店の裏話~飲食って誰でもできる?

皆さんにとって、飲食業ってどういう仕事に見えるでしょうか。
お客さんを席に誘導して、注文を取って、調理、配膳、お会計。あとは洗い物くらい?
あれ、なんだか未経験だけどやれば出来そうな気がするぞ。
そんな気がするのは多分、間違いではないです。
求人サイトなんかには未経験OK!を大きく目立たせた募集も多数。
アルバイトにいたっては、週1日~、日3時間~働けますなんて条件も出ていますね。
テレワーク主体になり、残業代が減って時間と体力に余裕は出来たけど収入が…。
あるいは、本業で稼げなくなり、比較的積極的に求人を出している飲食業に転職するか…。
そんな方々に、飲食業って本当に誰でもできる仕事なのか、お伝えしていきます。

誰にでもできます。ただ、続けられるかは別

いきなり見出しで結論を書いてしまいましたが、そうなんです。飲食業は誰にでもできます。
これはアルバイトに限らず、正社員として働く場合でもハードルは特に変わらなかったりします。
基本的に、常時と言っていいくらい、飲食店は人手不足です。ニュースなんかでも触れられる程度にはメジャーな事実ですね。
求人の事例ですと、大多数が年齢も経験も不問。多少、日本語に難がある外国籍の方でも普通に正社員になれます。
誰にでもできて、こんなに敷居が低いのに何故でしょう?それは、定着率が低いからにほかなりません。

・拘束時間が長いから?→社員はともかく、アルバイトであればシフト自由なお店も多いです。
・給料が安いから?→努力次第ではありますが、スタート時給が1200円以上のお店も増えています。
・体力的にきつそう→ワンオペならともかく、1人で何でもやるわけじゃないですね。休憩も当然あります。

こうして見ると、特別、飲食業が待遇悪いわけではないってことがわかるのではないでしょうか。一般的な他職種と比べても
何ら遜色ない環境ではあるわけです。ここに、目に見えにくい飲食業界の問題が隠れているんです。

学生時代、飲食店でアルバイトをしたことがあるという方は多いのではないでしょうか。初めてのバイトが飲食だった、とか
飲食は定番のバイト先でしたよね。営業や事務、エンジニア系職種と比べてアルバイト経験者は多いはずです。これが1つ。

・飲食は学生でも出来るアルバイトレベルの仕事だという思い込み

実際に学生アルバイトさんが悪いとか、学生時代の経験が良くないってことではないんです。
その頃の気持ちのままで飛び込むと…まあ、続きません。早い方は初日で思ったのと違った、と気付きバックレます。

当然なのですが、店側としては学生アルバイトさんはシフト組む上での主力となるので、辞められないように大事に扱う。
また、主力とはいえ相手は20歳前後の学生さんなので、育てていこうという気持ちもあるので結果、働きやすい環境に。

一方で副業会社員の方や他業種からの転職組の方に多いのが、そうした守られた環境下での飲食経験のみをもって甘く見る。
お店にもよりますが、通常、学生アルバイトさんに責任を負わせるようなところはないでしょう。
仕事にしても、掃除や仕込み、クレーム処理、レジの違算金等、面倒な部分は概ね店長及び社員で片付けます。
特に学生のアルバイトさんに関しては、楽しんで働けるように環境を作ってあげるくらいのことはやっていますね。

実際に何人も見てきました。「経験あるので出来ます」「学生じゃないので大丈夫ですよ」とか。自信のある方は多いです。
やる前から自己評価が高いこういうタイプの方は例外なく、1ヵ月以内にバックレます。自主退職じゃないですよ?
責任感の欠片もないこうした行動を大人が平然とやってのけます。何故か?学生時代のバイトの延長線上で考えるからです。
学生バイトだったら、いろいろな面で大目に見てもらえていたでしょうね。でも社員や副業アルバイターはそうではない。
事情は様々ですが、学生並に融通利かない副業組をお店が採用するのは、学生たちの見本になってもらいたい。
あるいは学生にはない社会経験を活かして一段上の気配りをしてほしい、等の思惑があって採用します。そこに学生気分で来る。
どちらにとっても、何もメリットがありませんね。なので、バックレが起こっても店側は別に何も思いませんし、しません。
アルバイトでも社員でも、飲食業界は来る者は拒まず、去る者は追わない。ベースとしてそういう文化がありますので。

自分が甘やかされていたということに気付いていない方、多いです。バイトでも仕事は仕事。
きちんと理解している人と差が出ます。
最初から教えてください、という姿勢がない方も浮きます。
経験があっても、何歳であっても、そのお店では自分が一番の新人だという認識で来てくれれば、
採用にもコストがかかっていますので無下に扱われることはまずないと思いますが。
初日から教育担当者にタメ口で、確認はその都度、私に入れてくる方もいました。
私が選んで、教育担当をお願いした先輩アルバイトを何だと思っているのでしょうね。
上下関係や年齢にこだわりが捨てられない方も、長続きしない典型です。

誰にでも始められる程度にハードルは低く、日常的に親しみもあり、なんとなく仕事内容も想像が付く。ここが落とし穴。
始めるのは簡単ですが、飲食業は学生でもできるアルバイトレベルの単純な仕事ではないです。

・飲食はただの肉体労働でしょ。体力さえあれば何とかなる仕事だという思い込み

もちろん、基礎的な体力が皆無であれば飲食は厳しいです。また、繁忙期や出勤者が少ない日のピーク帯などはただ単純に
体力勝負となることも多いです。しかし、全く頭を使わないわけではない…むしろ、ずっと頭を使わないと回らない仕事でも
あるのです。

どこかお店に入った際、こちらの席へどうぞ、と案内されますね。無作為に指定されていると思いますか?まあ、本当に何も
考えずに空いてる席へ通している場合もありますが。配席はお店が売り上げを取るためにしっかりと意識しなければいけない
大事な部分です。

カウンター4席、2名テーブル2席、4名テーブル4席、6名テーブル2席の小規模居酒屋があったとします。
独立希望者へ向けた話ではないので細かくは割愛しますが、席を余らせても店は何も得をしない、というのはわかりますね。

4名テーブルがすべて埋まっている状態で4名の新規客が来店します。この場合、まず6名テーブルにご案内することはない。
2名テーブル2席をくっつけて4名をご案内するという選択をするお店が多いと思います。
一つの賭けになってしまうのですが6名テーブルを4名で潰した場合、そのあと5名以上の来店が続いたらお断りするしかないからです。
この場合2名~4名であればカウンターを提案することも出来るので。
店側がこうした提案をすると、あっちの広い席が良いと勝手に6名テーブルに座るお客さんもいます。
ここら辺は店長次第になってしまうのですが、売り上げにシビアな店長ですと、入店をお断りする場合もあります。

今、どこの席が空いているか?埋まっている席で空きそうな席はどこか?次に〇名が来店したらどこへ通すか?
このリストを頭の中で常時更新し続けないと配席はできません。尚且つ、店内への様々な気配りも同時にこなさなければいけない。
このあたりが理解できないと、お客さんを通すたびに店長や先輩スタッフから無駄なお叱りを受けることになります。

キッチンだったとしても、同様に頭を使わないと仕事は回りません。レシピを覚えるとか、そういう単純な話ではありません。
いつも一品ずつ、順番にオーダーが来るわけではありませんが、いついかなる時も適正な提供順序があります。

4名テーブルから<唐揚げ><枝豆><焼き鳥盛り合わせ><本日の刺身><ポテトフライ><サラダ>のオーダーが入ります。
焼き鳥を焼き台に乗せ、揚げ物をフライヤーに入れ、最も手間のかかる刺身に取り掛かります。納得のいく綺麗な仕上がり。
揚げ物のタイマーが鳴る。<刺身><唐揚げ><ポテトフライ>が提供され後から手を付けた<枝豆><焼き鳥盛り合わせ>が
出て<サラダ>が出る。盛り付けるだけのサラダが最後なの?刺身の盛り付けがどれだけ美しかろうと、日本人はこういう細かい
ところにもこだわる方が多いです。

こうしたオーダーの場合は最も手軽な<枝豆>から提供し<焼き鳥>を焼きつつ<揚げ物>を揚げる。
<サラダ>を先に提供し、<刺身>の調理にかかる、とした方が納得感のある提供順序になります。
実際にはここに他のテーブルからの追加料理が入ったり、新規の1名客が入ったりと、いろいろなパターンがあります。
常に変わる状況を見ながら何をどういう順番で処理するのが最適かを何度も頭の中で組み替えながら手を動かさなければいけません。
提供遅延や注文順序の間違いはすぐにクレームになります。

ここら辺、実はチェーン店レベルですと、いわゆるガチの料理人さんが転職してきた場合も大いに躓きます。
職人のプライドがそうさせるのでしょうけど、必要以上に美しく仕上げる必要はありません。
なんなら、ひと手間加えて美味しくする必要もない。
チェーン店に求められるのはメニューの再現性。あの看板だからという安心感と信頼で成り立っています。
あのお店だけは何か盛り付けが綺麗とか、味が本格的となると信用に関わります。
なので、未経験で技術などなくても、レシピを頭に入れて手際良く作業が出来るスタッフの方が好まれます。

・これだけの条件なんだから、辞めてもどうせ誰か来るでしょという経営側の思い込み

飲食に人が定着しない一番の理由はまあ、これでしょうね。複数チェーン店の経営者、マネージャー職の人間、個人店規模でも
オーナーをやっている人間等、飲食業界に知り合いは多いです。
しかし、私が信頼できると感じたのは経営者、マネージャー、オーナーでそれぞれ各1人ずつしかいません。
他はすべて似たり寄ったりというか、まあ、人はみんな使い捨ての駒くらいにしか見てないのだろうな、という思考の方ばかり。
別に私の周りにそうした人間が集まっているわけではないです。飲食業界の一般的な考え方自体がそれなんです。
恐らく、古くからずっとその連鎖が続いてきているのでしょう。

変な話、自分自身が受けた扱い=その人のスタンダードなわけです。
なので、当人たちは当たり前の考えに基づき、当たり前の行動を取っているに過ぎないわけです。
歴史ある企業ほどその傾向は強く、日本人が大好きな伝統として、無駄に引き継がれていく。
自分たちはその伝統の中にずっと居るので、異質とは気付かない。
そうでなければ、こうも長きに渡って人手不足は続いていません。
もういい加減、見せかけの待遇改善だけでは誤魔化せない時代になったということでしょう。

と、これだけ書くとただの飲食業界批判になってしまいますが、ここからが大事。
長らく続くコロナの影響で、飲食店も急速に淘汰が進んでいます。
現に、辞めてもどうせ誰か来るの精神で経営していた企業は更なる人手不足で巻き返しを図れずにいます。
少し調べたところ、私が過去に属した個人店の1つは廃業、もう1つは休業中のまま。
中規模チェーンでも店舗数半減と苦しい状況のようです。
その一方で、私もですが中年以上の管理職層が結構な割合で会社を離れているのが現状です。
上記の通り、業界自体がおかしいと感じている人間は多いのです。
ただ、それぞれに年齢だったり生活だったりを考えて踏みとどまっている。
そうした状況だったのが、コロナ渦にあって動き出したように思うのです。

現に、後輩が勤めるチェーンでは、ここ最近で20代の若手の店長登用が増えているとのこと。
日本語に不自由ないことが条件ですが外国籍でも店長及びマネージャー職に引き上げる企業も出てきていると。
これは明るいニュースだと思います。
従来の業界の慣習に染まっていない世代や他の文化圏からの役職者が増えることで、働きやすくなるお店が増えるのでは?
と思えるからですね。

極論ですが、企業がどういった体質であれ、直接的な影響はあまりないです。
経営者や幹部クラスはそうそう店舗に来ませんので。
働くうえで重要なのは、店長がどういう思考の持ち主であるかというところ。
私は会社に忠実なタイプの店長ではなかったですが、その分、お店のスタッフにはそれなりに受け入れてもらえていたと……思いたい。
一口に店長と言っても、タイプは様々です。

・過去の栄光型→40代以上に散見される、若い頃の成功体験を常に語りたい人。現状に不満があり、やる気はないことが多い
・忠犬型→本部の意向が私の意向です、というタイプ。自分に自信がなく、言葉や指示に一貫性なし。意識だけは高いことが多い
・ハイテンション型→ノリと勢いで引っ張っていく、割とよく見る店長っぽい店長。しかし、特に何も考えていないことが多い
・独立志向型→自分の考えを持ち、売り上げや人員育成に尽力する実力派。一方で我が強く、シフトを壊滅させることが多い
・日和見型→最低限の役目は果たすが、特に何もしない事なかれ主義。問題は起こさないが、気付いたら退職してることが多い
・個人プレー型→本人の能力は高いが、指示出しや育成はしない。自分でやった方が速いから。店が動物園みたいになることが多い

と、まあ、これでもただの一例ですからね。10人居れば、10人みんな別の店長です。
ある種、相性さえ合えばどんな会社であっても楽しく働くことができますよ。まあ、やり直しの利かないガチャみたいなものですが。

副業ならいつでも。本業なら期間を決めて

さて、あまり一般の方が考えないような部分に触れてみましたが、いかがでしょうか。
少しは飲食業という仕事への見方が変わる、そのきっかけくらいにはなれていれば良いのですが。
最後に、わかりやすい箇条書きでまとめ。

・誰でもできるの?始めることは誰でもできます。年齢、経験不問です。即面接&採用もざらですよ。
・資格とかいらない?自営しないなら不要です。食品衛生と防火管理は必要なら会社が負担してくれるケースもあります。
・経験者は不利に見えるよ?→経験はある方の方が成長は速いです。即戦力にもなりえます。経験に胡坐をかかなければ
・不安しかないのだが?合わないな、と思ったら辞める。そういう体質の業界です。弾は豊富です。合う店を探しましょう。
・すぐ辞めたら印象が悪くなるよね?→現役飲食スタッフも、9割型転職繰り返してます。普通です
・副業か本業か、どっちがお奨め?→未経験ならバイトで副業してみましょう。融通利きますし、やってわかることもあります。
・生活のためには社員になるべき?→深夜メインで勤務すれば、バイトでも25万程度狙えます。レギュラーになる努力は必要ですが。
・本業は奨めてない?→当たり外れ激しいので…。ある程度耐えないと成長しませんが、1年で店長になる!とか期間を決めて
・続けちゃダメなの?→プラスがマイナスを上回れば。嫌な気持ちを押し殺して働き続けると精神が壊れます
・続けるコツって?合う店を見つけることです。それ以外だと、成長を実感できる環境であれば頑張れますね。

でも飲食業って結局はブラックなんでしょ?とか、給料低いってデータが出てるけど?とか、疑問は他にもまだあると思います。
次回は飲食店の実際の勤務時間や、気になる収入についてお話しできればと思います。

あなたにとって、良い店が見つかることを願って。

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叶井 拓也

13年間、チェーン店を主に料理長・店長を歴任した元飲食人。 現職はwebライター。会社に雇われない生き方を模索しつつ、 ネットの片隅で活動中。

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